盛岡の弁護士による相続のご相談
佐藤邦彦経営法律事務所

岩手県盛岡市中央通1丁目8番13号 中央ビル2階

営業時間
平日9時00分~19時30分
定休日
土日・祝祭日

電話相談も承ります。お気軽にどうぞ。

019-613-3246

豆知識 Vol.105 争族にしないために(遺言書作成の推奨事例)3

本コーナーの各記事の内容は、特にことわりがない限り掲載時点の法令に基づいたものとなっておりますのでご注意ください。

********

適切な遺言書を作成しておけば、遺産分割紛争のかなりの部分は回避できます。

今回は、遺言書作成が特に推奨されるケースのご紹介、第3回目です。
 

【中小企業の経営者や個人事業主が後継者に自社株式や事業用財産を承継させたい場合】

被相続人が経営する会社の株式や事業用財産が複数の相続人に分散してしまうと、後継者となった相続人による事業継続が極めて困難になる可能性があります。

このような場合も、あらかじめ後継者を指定するとともに、遺言書で自社株式や事業用財産を後継者に帰属するように手を打っておく必要性が高いと言えます。

しかし、このような場合にも悩ましいのが遺留分対策です。
事業用財産を後継者となる相続人に承継させた結果、他の相続人の遺留分を侵害することもあるでしょう。
遺留分対策として、以下の2つの手法が考えられます。
 

1 「遺留分に関する民法の特例・除外合意」(民法特例・除外合意)を活用する

遺留分に関する民法特例の除外合意とは、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」で定められた民法の特例で、被相続人である先代経営者の推定相続人全員の合意をもって、事業の後継者が先代経営者から贈与により取得した自社株式の全部又は一部について、その価額を遺留分算定の基礎財産に算入しないという内容の合意をいいます。

民法でも遺留分の事前放棄という制度はありますが、放棄をする推定相続人が自分で家庭裁判所に申立てをして許可を得る必要があり、使い勝手が良いとは言えません。

これに対して、本特例の除外合意によれば、後継者が推定相続人全員の合意を得れば、後継者が単独で手続きを進めることができます。

もっとも、本特例を活用するには推定相続人全員の合意が必要ですから、推定相続人間で円満なコミュニケーションが取れていないような場合は、活用が難しいという難点は残ります。
 

2 生命保険を活用する

被相続人が契約者・被保険者となる生命保険契約で、特定の推定相続人を受取人に指定した場合、この生命保険金は、原則として受取人の固有財産になります。
そこで、遺留分対策の原資として生命保険契約を結んでおき、事業の後継者に自社株式や事業用財産の全てを相続させるという遺言書を作成する。他の共同相続人から遺留分侵害額請求がきたら受け取った生命保険金で支払いをする、という手法が考えられます。

ここで注意が必要なのは、場合によっては生命保険金の受取りが事業後継者の特別受益に当たるとして、遺留分算定の基礎財産に持ち戻されることがあるという点です。
遺留分算定の基礎財産に持ち戻されてしまうと、せっかく講じた対策の効果が大きく減殺されてしまいます。

この点について、最高裁は相続開始時の相続財産の総額に占める死亡保険金の総額の割合が約9.6パーセントに相当する事案で、以下のように判示し、結論としては持ち戻しを認めました。

曰く、「養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生じる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる」

この最高裁の判断は、あくまで個別事案に関するものですから、生命保険金が遺産総額に占める割合が9.6パーセントよりも低ければ持ち戻されないというわけではありません。
逆に、9.6パーセントよりも高ければ必ず持ち戻されるというわけでもありません。

それから、上記のような遺留分対策で生命保険を活用する場合は終身保険を使うことになると思われますが、終身保険の保険料は定期保険に比べると割高な印象がありますので、保険会社からの助言も必要になるかと思われます。
 

いずれにしても、事業の安定した継続において遺言書が果たす役割は大きいと言えるでしょう。

【総括】

当職が、遺言書の活用を強くお勧めするのは、遺言書の適切な活用により相続が開始した後の遺産分割紛争のかなりの部分を未然に防止できる可能性が高いからです。

遺産分割紛争になれば、最低でも半年、長ければ数年程度の時間がかかります。

また、皆さんの費用負担の観点から言っても、遺言書の作成であれば事後的な紛争解決に比べてかなり小さな負担で済むと思われます。

遺言書の活用をぜひご検討ください。

2023年11月10日掲載

関連記事

お問い合わせ

電話相談も承ります。お問合せはこちらへ。

019-613-3246

営業時間:平日9時00分~19時30分

お問合せ・ご相談はお電話またはメールにて受け付けております。まずは気軽にご連絡ください。