盛岡の弁護士による相続のご相談
佐藤邦彦経営法律事務所
岩手県盛岡市中央通1丁目8番13号 中央ビル2階
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自筆証書遺言では、遺言者はその全文、日付、氏名を自書し、押印しなければなりません。
そして、民法の定める方式に従わない遺言は無効とされています。
それでは、日付を間違えて記載してしまった遺言は無効となってしまうのでしょうか。
■ 日付の重要性
遺言者は、遺言を何度でも作成することができます。
そして、遺言が複数存在する場合は、後になされた遺言が優先されます。
つまり、先後の遺言で内容が相反していたり、内容が異なっていた場合は、後の遺言に従うことになるのです。
さらに日付は、遺言者の遺言能力が争いになった場合に重要な判断材料になります。
このように、日付は遺言において極めて重要な意義を持っており、遺言が真実成立した日付が記載されなければなりません。
したがって、日付を誤った遺言は、無効とされる可能性が大いにあるのです。
■ 事例紹介
最高裁は、遺言書の実際の作成日と遺言書に記載された作成日付が相違する以下のような事案で、結論としては遺言を有効と判示しました。
(事案の概要)
X1、X2及びY1は、昭和48年10月に死亡したZの子であり、Zは死亡前の昭和48年中に、弁護士であるY2と相談の上、自筆証書遺言を作成し、Y2に預けた。
Z死亡後に家裁の検認を受けた同遺言書には、遺産の大部分をY1に遺贈すること、遺言執行者をY2と指定すること等の記載があるが、その作成日付は「昭和28年8月27日」と記載されている。
X1とX2がY1とY2を被告として同遺言の無効確認を求めた。
(判決要旨)
自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、遺言はこれによって無効となるものではない(最判昭和52年11月21日)。
■ 検討
最高裁のこの判断によって、作成日付に誤記がある遺言が全て無効になるわけではないことが示されました。
しかし、注意しなければならないのは、この判決は、遺言が有効になるための要件として「その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合」というものを要求している点です。
上の事例では、遺言執行者に指定されたY2は昭和47年に初めてZと知り合ったという事情に加え、Y2が弁護士になったのは昭和30年であったという事情がありました。
もちろん、弁護士Y2は職務上関与したわけですから、当該遺言証書以外にも様々な資料や記録・メモなどがあったことでしょう。
つまり、本事案は、誤記であることと真実の作成日が遺言書の記載その他から容易に判明する例外的なケースであったといえるのです。
以上から、遺言者や遺言作成に立ち会う人間は、細心の注意を払って日付の正確を期する必要があります。
2018年6月17日掲載